教育基本法「改正」法案の廃案を求める!

 全国民主主義教育研究会は、教育基本法にある「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する」人間の育成をめざし、さらに子どもや青年の社会参加のための条件整備が不可欠であると考え、教育・研究活動を進めてきた。私たちは、今日の「いじめ」問題、子どもの発達や成長に関わる諸問題に対しては、今こそ個人としての価値を尊重し「人格の完成」をめざす教育こそが追求されなければならないと考える。しかるに、今回の教育基本法「改正」案は、教育の目的から「個人の価値」を意図的に外し、教育目的を達成すべき教育目標の一つとして「公共の精神」「我が国と郷土を愛する」態度の養成などと並列的に列挙しているにすぎない。これらの改変は、「改正」の目的が、こうした現実の教育問題の解決を意図していなかった結果であるといわざるをえない。
 私たちは、今回の「改正」案が、現実の教育・社会の問題を解決するためではなく、教育への国家的ないし権力的統制を強化・正当化し、“愛国心”など国家道徳を強制するしくみをつくるために提案されたものと考え、教育基本法「改正」案の廃案を強く求める。
                                        2006年11月14日
                           全国民主主義教育研究会・常任委員会

「愛国心」をおしつける教育基本法改悪に反対する

2006年5月12日 全国民主主義教育研究会

 小泉内閣は、教育基本法「改正」案を閣議決定し、今国会に提出しました。今回の「改正」は、2003年に中教審が出した教育基本法見直しの答申を受けて出されたものです。

 今回の「改正」案の特徴は、現在の子どもや社会の問題の責任を教育基本法に押し付け、「愛国心」の教育が教育基本法として盛り込まれているという点です。「愛国心」の表現をめぐっては与党内でも議論がありましたが、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」「態度を養うこと」として決着し、何としても今国会で成立をさせようという動きが強まっています。

 そもそも、現行の教育基本法は、戦後の再出発にあたって「二度と戦前の過ちを繰り返さない」という反省のもとにつくられたものであって、憲法の理念を教育分野において具体化し、教育のあり方について根本的な方向性を与え、基礎となる原理を示した準憲法的性格を持つものです。憲法第19条の「思想・良心の自由」、憲法第26条の「教育を受ける権利」の保障から、憲法は教育を子ども自身の権利としてとらえ、現行教育基本法第1条は教育の目的を「人格の完成」におき、「個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して期して行わなければならない」と定めています。ところが、「改正」案は、教育の目的から「個人の価値」を意図的にはずし、教育目的を達成すべき教育目標の一つとして「個人の価値」を位置付けています。ここでは、「個人の価値」は、「公共の精神」「我が国と郷土を愛する」態度の養成などと並列的に列挙されることになり、「公共」や「愛国心」の前に「個人の価値」が制約されることになりかねません。さらに、国を愛する態度が教育の目標に位置づけられることになると、「愛国心」の表現方法にも国家が指図することになります。これでは、個人としての価値を尊重し「人格の完成」をめざす教育の目的は達成することができません。

 また、「改正」案は、現行教育基本法にはない教員の責務規定を新たに設け、「自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」としています。一見当たり前のように見えるこの責務も、「自己の崇高な使命」の中に「愛国心」教育も含まれていることから、子どもたちに自主的批判的精神を培うような教育は「崇高な使命」に反する、というレッテルを貼られかねません。実際、国旗・国歌法の制定以降、子どもたちの自主的精神を育もうとする教育現場への行政介入が強まり、「内心の自由」さえ侵害しかねない状況を鑑みると、私たちの見解が杞憂であるということはできないでしょう。「愛国心」の具体的なあり方を教育現場に押し付けるのであれば、教育のあり方を決めるのは、国ではなく国民である、という戦前の痛苦の反省に立った現行教育基本法の精神が根本的に覆されることになってしまいます。

 私たちは、教育基本法前文にある「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する」人間の育成をめざし、さらに子どもや青年の社会参加のための条件整備が不可欠であると考え、教育・研究活動を進めてきました。今日の教育、子どもの発達や成長などに関わる諸問題は、今回の「改正」案のようなやり方で教育基本法の文言を変えれば解決されるものではありません。むしろ、これまでに教育基本法の理念がどれほど実践されてきたかを広く検証し、大いに議論していくなかで解決の展望を見出していくことが望まれます。そこには、教育現場で働く教員、生徒、保護者など、広く社会全体から知恵が寄せられていることが必要です。

 私たちは、こうした観点に立って、今回の教育基本法「改正」案に反対し、日本国憲法と教育基本法の理念を守り、発展させることを要求します。                          

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